「ルリユール 書物への偏愛ーテクストを変換するもの」展と

フラグマン・ドゥ・エムによるルリユールの企画展が11月8日から11月19日に開催されました。
 会期中には多くの方にお越しいただき、作品をご覧いただきながら直接お話をすることができて大変有意義な時間を持つことができました。ご来訪いただいた皆様、どうもありがとうございました。
 また、ルリユールの企画展という、日本では希少な企画展示の機会をくださった「ときの忘れもの」さんには改めて一同深く感謝しています。
 この原稿を書いている現在は、実はまだ会期中の中程なのですが、ご来客のみなさんにご感想や質問をいただき、展示会場には充実した時間が流れています。初めて革工芸のルリユール作品に接したという方も多く、熱心に質問してくださってとても嬉しく思います。中には技法について鋭い質問もあり、どきどきすることもありました。お話しながら日本ではまだまだ認知度が低いルリユールをまず知っていただくことが何よりも必要だと改めて感じています。
 また、最終日には、写真家の港千尋氏によるトーク・イベントも行われ、より充実した展覧会となることでしょう。

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 港氏は、グローバルなフィールドワークによる写真と評論で広く知られた方ですが、その写真そして著書で何よりも印象的なのは対象物に注がれる眼差しの在り方です。
 『記憶ー「想像」と「想起」の力』で語られているー(人間の)記憶は、文字や数字や信号のように書き込まれ保存されているものではなく、われわれが生きているすべての瞬間に、刻々と変化しながら現出するーは、意識しているかどうかは別として、たぶん誰もがなんとなく実感している現象ではないでしょうか。
 写真にはまったく門外漢である私が港氏の写真集に初めて接したのは「文字の母たちーLe Voyage Typographique 」を通じてでした。当時、西洋古版本を学習し始めた所で、活字についてしっかり調べたいと資料を漁っている内になぜか遭遇しました。

zu2『文字の母たちーLe Voyage Typographique』
港千尋
インスクリプト 2007年


 2006年に(事実上はほぼ)閉鎖されたと言っていいフランス国立印刷所の内部と、縮小されたとはいえ現在も存在する活字彫刻師の姿と活字の群れを撮影したこの写真集は、「活字を撮した写真」という不思議さとともに、失われつつあるものへのノスタルジーは感じられるけれどもそれとは微妙に違う距離も感じられて、名状しがたい感銘を受けたのでした。
 日頃から書物が持つテクスト以外のマテリアルな側面、それは印刷、(刷られるところの)紙、活字、版面、版画、タイトル、そして製本と表紙(!)ーに強く引きつけられている自分としては、ガラモン活字が過去に実際に使われ多くの印刷が行われたこの印刷所の内部に潜入したかのような気になり幸福な気持ちもしたのでした。

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(文:市田 文子)
市田(大)のコピー


●作品紹介~市田文子制作
市田7-1


市田7-2
Egarements chez Louis Medard
Lunel
 
2006年 限定150部のうち71番

・水牛革総革装
・綴じつけ製本
・スエード革見返し三重装 
・タイトル箔印刷
・210×300×22mm
・2013年制作

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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


●本日のお勧め作品は、瀧口修造です。
20161203_takiguchi2014_I_34瀧口修造
「I-34」
水彩、インク、紙
イメージサイズ:34.2×23.6cm
シートサイズ :35.7×25.1cm


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本日の瑛九情報!
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しばしば画家の出発は、秘かに孤独に始まり、孤独に終る……というのも、つい空語に陥りやすい自由というものを心に抱いての独り旅であるからではあるまいか。
瑛九はけっしていわゆる孤絶の人なぞではなかった。いつも社会にむかってひらかれた心を持ちつづけたといってよいだろう。ただわが国の画壇というものの体質にはついになじまず、反撥しつづけた。瑛九は五〇歳を待たず惜しくも世を去ったけれど、多くのみずみずしい仕事、しかも先駆的な仕事を残している。そしてつねに若く、汚れを好まぬ人々の共感をえつつある。瑛九は歩みつづけている。瑛九が瑛九らしくあることがいかに大切なことであるか、私はいよいよ痛感するばかりである。

瀧口修造【瑛九の訪れ】小田急グランドギャラリー『現代美術の父 瑛九展』図録1979年6月より)~~~
瑛九の良き理解者であり「瑛九の会」呼びかけ人でもあった瀧口修造が書いた七つの文章をご紹介しています。
瑛九 1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす>展が東京国立近代美術館で始まりました(11月22日~2017年2月12日)。ときの忘れものは会期終了まで瑛九について毎日発信します。

◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。