frgmのエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」第38回

接着について・ドリュール編


箔押しをする際、ただ金箔を革の上にのせて花型を押し当てただけでは接着できません。ドリュールでは、前回の「接着について・ルリユール編」でご紹介した接着とは別種類の「液状のり」を使います。今現在、ドリュールをするほとんどの人は、1931年にフランスで製造され始めた「fixor」と言う成分企業秘密の接着液を使っていると思います。
それでは、それ以前は何を接着液として使用していたのでしょうか。

文献をいくつか見てみると、プラスアルファで異なるレシピが紹介されていますが、基本的には卵の白身と酢を混ぜた「卵白液」が使われていました。おそらく金箔がドリュール装飾にも用いられるようになった時期からの接着液ですので、長い歴史があり、もちろん現在でも使われています。ツヤを出すものの意味で、英語では「glair」と呼びます。フランス語でも「glaire」と言いますが、みんなはblanc d’oeuf(卵白)と言っていた気がします。

また、あまりシボのない安価な革で装丁された本には、でんぷんのりを水で薄めてた液を使用します。この接着液を使う目的はあくまで手間を省くことですので、箔押しを施す部分だけでなく、その全面にさーっと塗ってしまいます。
英語圏では「paste wash」と呼ばれ、主に革の表面のキメを整える役割として採用されることの方が多いようです。しかし、この方法を色の薄い革に施してしまうと、革の色が変わってしまう恐れがあるので注意が必要です。

接着液に付随した余談ですが、英仏問わず資料の中でたまに見かける「おしっこの使用」も、何というか、ルリユールの長い歴史を感じさせます。卵白液のタマゴは滋養強壮ですが、尿は不要物です。実際本当に当時の職人たちは使っていたのでしょうか・・・。

ある本の著者は、先輩から教わった綺麗な箔押しを施す秘技が「尿」だったと言います。それには、化学的(?)根拠も後ろ盾にあるようです。
まず、採尿後しばらく寝かせて、尿が発酵するのを待ちます。発酵が始まったら、尿の中の尿素がアンモニアの炭酸ガスと変わり、アルカリ性になります(この「天然液」を使って、皮製造業者は皮をリフレッシュさせていたようです)。
先輩曰く、「まず尿を革に塗り、次に低濃度のシュウ酸溶液、でんぷんのりを薄く塗って、卵白液を2度塗るといいぞ。」
尿の反応により新鮮さが蘇がえり、シュウ酸がにより汚れが取り除かれ、でんぷんのりとともにキメが整えられた革は準備万端になります。汚れのない革の上に卵白液が効果的に働いて、金箔がより美しく輝くというカラクリだそうです。

参考文献
「The bookbinding: its background and technique」Edith Diehl著

(文:中村美奈子
中村(大)のコピー


●作品紹介~中村美奈子制作
名刺入れA中村美奈子
《装飾付革装名刺入れ》(参考作品)

箱・箔押し 中村美奈子
・山羊革
・パラジウム箔
・制作年 2012年
・101mm×65mm×31mm

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●ルリユール用語集
ルリユールには、なじみのない用語が数々あります。そこで、frgmの作品をご覧いただく際の手がかりとして、用語集を作成しました。

本の名称
01各部名称(1)天
(2)地
(3)小口(前小口)
(4)背
(5)平(ひら)
(6)見返し(きき紙)
(7)見返し(遊び紙)
(8)チリ
(9)デコール(ドリュール)
(10)デコール(ドリュール)


額縁装
表紙の上下・左右四辺を革で囲い、額縁に見立てた形の半革装(下図参照)。

角革装
表紙の上下角に三角に革を貼る形の半革装(下図参照)。

シュミーズ
表紙の革装を保護する為のジャケット(カバー)。総革装の場合、本にシュミーズをかぶせた後、スリップケースに入れる。

スリップケース
本を出し入れするタイプの保存箱。

総革装
表紙全体を革でおおう表装方法(下図参照)【→半革装】。

デコール
金箔押しにより紋様付けをするドリュール、革を細工して貼り込むモザイクなどの、装飾の総称。

二重装
見返しきき紙(表紙の内側にあたる部分)に革を貼る装幀方法。

パーチメント
羊皮紙の英語表記。

パッセ・カルトン
綴じ付け製本。麻紐を綴じ糸で抱き込むようにかがり、その麻紐の端を表紙芯紙に通すことにより、ミゾのない形の本にする。
製作工程の早い段階で本体と表紙を一体化させ、堅固な構造体とする、ヨーロッパで発達した製本方式。

半革装
表紙の一部に革を用いる場合の表記。三種類のタイプがある(両袖装・額縁装・角革装)(下図参照)【→総革装】。
革を貼った残りの部分は、マーブル紙や他の装飾紙を貼る。

夫婦函
両面開きになる箱。総革装の、特に立体的なデコールがある本で、スリップケースに出し入れ出来ない場合に用いる。

ランゲット製本
折丁のノドと背中合わせになるように折った紙を、糸かがりし、結びつける。背中合わせに綴じた紙をランゲットと言う。
全ての折丁のランゲットを接着したあと、表装材でおおい、装飾を施す。和装本から着想を得た製本形態(下図参照)。

両袖装
小口側の上下に亘るように革を貼る形の半革装(下図参照)。

様々な製本形態
両袖装両袖装


額縁装額縁装


角革装角革装


総革装総革装


ランゲット装ランゲット製本


●今日のお勧め作品は風間健介です。
kazama_05風間健介
「夕張物語(12)」
ゼラチンシルバープリント
23.8x29.7cm  サインあり

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◆ときの忘れものは「ART MIAMI 2017」に出展します。
Art Miami_2017_LOGO_dates_600
会期:2017年12月5日[火]~10日[日]
ブースナンバー:A428


◆埼玉県立近代美術館の広報紙 ZOCALO の12月-1月号が発行されました。次回の企画展「版画の景色 現代版画センターの軌跡」が特集されています。館内で無料配布しているほか、HPからもご覧いただけます。

◆ときの忘れものは「WARHOL―underground america」を開催します。
会期=2017年12月12日[火]―12月28日[木] ※日・月・祝日休廊
201712_WARHOL

1960年代を風靡したアングラという言葉は、「アンダーグラウンドシネマ」という映画の動向を指す言葉として使われ始めました。ハリウッドの商業映画とはまったく異なる映像美を目指したジョナス・メカスアンディ・ウォーホルの映画をいちはやく日本に紹介したのが映画評論家の金坂健二でした。金坂は自身映像作家でもあり、また多くの写真作品も残しました。没後、忘れられつつある金坂ですが、彼の撮影したウォーホルのポートレートを展示するともに、著書や写真集で金坂の疾走した60~70年代を回顧します。
会期中毎日15時よりメカス映画「this side of paradise」を上映します
1960年代末から70年代始め、暗殺された大統領の未亡人ジャッキー・ケネディがモントークのウォーホルの別荘を借り、メカスに子供たちの家庭教師に頼む。週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり、皆で過ごした夏の日々、ある時間、ある断片が作品には切り取られています。60~70年代のアメリカを象徴する映像作品です。(予約不要、料金500円はメカスさんのNYフィルム・アーカイブスに送金します)。

●書籍のご案内
版画掌誌5号表紙600
版画掌誌第5号
オリジナル版画入り美術誌
特集1/ジョナス・メカス
特集2/日和崎尊夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版ーA : 限定15部 価格:120,000円(税別) 
A版ーB : 限定20部 価格:120,000円(税別)
B版 : 限定35部 価格:70,000円(税別)


TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別) *送料250円
*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。


●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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◆frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。