<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第100回
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2021年5月現在、この写真を見てだれもが思い浮かぶのは、
「密」という言葉ではないか。
2019年夏にはこんな言葉はどこを探っても出てこなかった。
ところが、いまはちがう。
どこを眺めても、何を見ても、「密」かどうかに目がいってしまう。
夏の夜である。
日は落ちてネオンやライトが街路を照らしている。
日中の暑気は容易に去らず、
あちこちの空間に淀み、溜まり、
コンクリートのベンチもたっぷり熱を含んでいる。
そこに肌を接するようにして坐っている人、人、人。
暑苦しいはずなのに、そうは感じていないようである。
肘を直角に折り、手先に握った平たいものに熱中している。
首と手の角度がみな同じで、
見つめるうちに、人以外のものに見えてきた。
そう、餌に集まる昆虫の群れに似ているのだ。
ふと、昔の人にこの光景を見せたら、
何をしているところだと思うだろう、と考えた。
昔と言っても大昔ではなく、10年くらい前ですら、
こういう体勢から連想されるものは読書だったから、
多くの人が「本を読んでいるところ」と答えるのではないか。
ところが、よく見ると手に握られているのは、
本よりも、雑誌よりもずっと小さなものだ。
しかもその表面に指が触れていて、
本のときよりも遥かに活発に動いている。
ここは駅前広場であり、
人を待っていたり、一休みするための場所である。
もしもこのベンチにこういう姿勢をとっている群衆が出現したなら、
異様な雰囲気になっただろう。
新興宗教の一団のように思えたかもしれない。
つまり、
これほどたくさんの人が、一箇所に集まり、
同じ姿勢で、肌を寄せ合い、同じ形のものに熱中するという光景は、
以前にはなかったことなのだ。
21世紀のいまは、世界中どこを見まわしても当たり前にあって、
何の不思議も感じないというのに!
ベンチの左横には低い柱状のものがあり、
表面にグラフィティーが描かれている。
頭や嘴の印象からすると、フクロウかミミズクのようだ。
大きなぎょろ目で、同じ姿勢で静止している人間たちを見つめているさまが、
眉をひそめているようにも、呆れているようにも見える。
ここで冒頭の「密」の話題にもどると、
いまこの写真からわたしたちが受け取る恐れを、
「本の時代の人々」と共有することはできない。
人や物や建物が稠密な状態にあるのは都市では当然であり、
何も恐れることではなかったのだから。
「マスク時代」に入って見え方が激変してしまったのだ。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作品情報
タイトル:『888前夜』より
写真:上出優之利
●作家紹介
上出 優之利(Masanori Kamide)
大阪府出身。1980 年代より DJ / ミュージシャンとして 30 年間活動。2011 年の震災を機に、写真家に転向、 ストリート・スナップからポートレイトまで、人物を主な被写体として活動中。福生の伝説的ディスコや、 歌舞伎町のポールダンサーたちなど、コミュニティを内側から捉えるスタイルも好評を博し、写真集『モ ノクロのブルース』で 2017 年土門拳文化賞奨励賞を受賞。
OFFICIAL SITE: www.masanorikamide.com
●写真展のお知らせ


●上出優之利写真展「888前夜」
日程:2021 年 4 月 17 日(土)- 5 月 1 日(土)
時間:12:00-20:00 日曜休
会場:Flying Books
住所:渋谷区道玄坂1-6-3渋谷古書センター2階
*現在開催中の上出優之利写真展「888前夜」ですが、会場のFlying Booksが緊急事態措置により休業となるため、一旦中断させていただき、会期を改めて、再開させていただきます。販売サイト(https://www.mocmmxw.com/buy/new-888zenya/)こちらで情報をアップデートして参ります。急なお知らせで申し訳ございませんが、何卒ご理解の程、よろしくお願い申し上げます。
●日本外国特派員協会 特別写真展
日程:2021 年 5 月 10 日(月)- 6 月 4 日(金)
時間:10:00-18:00 土日祝日休
会場:公益社団法人日本外国特派員協会(FCCJ)
住所:千代田区丸の内 3-2-3 丸の内二重橋ビル 5 階
入場:無料(FCCJの規定により20歳未満の方は入場いただけません。)
●写真集のお知らせ
書名:『888 前夜』
著者:上出優之利
監修:山路和広 (Flying Books)
デザイン:星野貴幸 (hoshino design office)
仕様:並製/A4変形/本文160頁+表周り
定価:2,750 円(税込)
発売:2021年4月
発行:株式会社 HEG
ご購入はこちらからお願いします。
●新刊のお知らせ
大竹昭子さんがはじめた書籍レーベル<カタリココ文庫>から新刊『五感巡礼』がでました。
日本経済新聞「プロムナード」の連載を再構成した随想録で、ひとつのエピソードが思わぬ方向に発展して五感を巡礼していきます。
全国の特約書店および通販でお求めいただけます。
https://katarikoko.stores.jp/
●塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」全6回の連載が完結しました。
塩見允枝子先生には昨秋11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。4月28日ブログには第6回目となる特別頒布作品を掲載しました。フルクサスの稀少作品をぜひこの機会にコレクションしてください。
●神奈川県立近代美術館 葉山館で9月5日まで「開館70周年記念 空間の中のフォルム―アルベルト・ジャコメッティから桑山忠明まで」が開催中。レストルームでは5月16日まで宮脇愛子のガラス作品が展示されています。
同時に若林 奮の「新収蔵作品展」が9月5日まで開催されています。
●東京国立近代美術館で5月16日まで「MOMATコレクション」が開催中。駒井哲郎、北川民次、松本竣介、瑛九などが展示されています。
●東京・アーティゾン美術館
5月9日(日)まで「Steps Ahead: Recent Acquisitions 新収蔵作品展」が開催中。オノサト・トシノブ、瀧口修造、元永定正、倉俣史朗など現代美術の秀作が多数展示されています。3月13日ブログに番頭おだちの観覧レポートを掲載しました。
●埼玉県立近代美術館で5月16日まで「コレクション 4つの水紋」が開催中。倉俣史郎の名作「ミス・ブランチ」が出品されているほか、ときの忘れものが寄贈した瑛九(コラージュ)や靉嘔の版画も展示されています。4月17日ブログにスタッフMの観覧レポートを掲載しました。
●新装なった板橋区立美術館
5月23日まで「さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち」展が開催中。松本竣介、難波田龍起、福沢一郎、オノサト・トシノブらの戦前・戦中期の作品が展示されています。
担当学芸員の弘中智子さんによる展覧会紹介は4月22日ブログに掲載しました。
招待券を少しいただきました。ご希望の方はメールにてお申込みください。
●東京・天王洲アイルの寺田倉庫 WHAT
佐藤研吾《シャンティニケタンの住宅》、Nilanjan Bandyopadhyay
5月30日まで「謳う建築」展が開催中。佐藤研吾が出品しています。
番頭おだちの観覧レポートは5月6日ブログに掲載予定です。
●栃木県真岡市・久保記念観光文化交流館
6月14日まで久保貞次郎旧蔵の版画と素描による「関根伸夫展」が開催中。
久保記念観光文化交流館については2018年11月19日ブログ「第一回久保貞次郎の会~真岡の久保講堂を訪ねて」をお読みください。
三回忌となる5月13日ブログで関根伸夫の位相絵画をご紹介します。
●宮崎県立美術館で6月22日まで「第1期コレクション展」が開催中。今年生誕110年を迎えた瑛九の油彩、水彩、版画、フォトデッサンなど32点が展示されています。
●和歌山県立近代美術館で7月4日まで「コレクション展 2021-春」が開催中。菅井汲、元永定正、吉原英里などが展示されています。
●大分市美術館で7月11日まで「第1期コレクション展/生誕110年 糸園和三郎と"自由美術"」が開催中。瑛九のリトグラフ3点が展示されています。
●富山県美術館で7月13日まで「瀧口修造コレクション 瀧口修造の肖像Part 1 松澤宥・加納光於・合田佐和子」が開催中。瀧口修造と三人の交流をふりかえる展示がされています。
●中国の上海と広東省仏山市で安藤忠雄展
上海の復星芸術センター(Fosun Foundation)で6月6日まで「安藤忠雄:挑戦」が、広東省仏山市の安藤忠雄設計による和美術館(He Art Museum)で8月1日まで「BEYOND:ANDO TADAO and ART」が開催中。4月26日ブログでスタッフSが二つの安藤展を紹介しています。
●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
(画像をクリックすると拡大します)2021年5月現在、この写真を見てだれもが思い浮かぶのは、
「密」という言葉ではないか。
2019年夏にはこんな言葉はどこを探っても出てこなかった。
ところが、いまはちがう。
どこを眺めても、何を見ても、「密」かどうかに目がいってしまう。
夏の夜である。
日は落ちてネオンやライトが街路を照らしている。
日中の暑気は容易に去らず、
あちこちの空間に淀み、溜まり、
コンクリートのベンチもたっぷり熱を含んでいる。
そこに肌を接するようにして坐っている人、人、人。
暑苦しいはずなのに、そうは感じていないようである。
肘を直角に折り、手先に握った平たいものに熱中している。
首と手の角度がみな同じで、
見つめるうちに、人以外のものに見えてきた。
そう、餌に集まる昆虫の群れに似ているのだ。
ふと、昔の人にこの光景を見せたら、
何をしているところだと思うだろう、と考えた。
昔と言っても大昔ではなく、10年くらい前ですら、
こういう体勢から連想されるものは読書だったから、
多くの人が「本を読んでいるところ」と答えるのではないか。
ところが、よく見ると手に握られているのは、
本よりも、雑誌よりもずっと小さなものだ。
しかもその表面に指が触れていて、
本のときよりも遥かに活発に動いている。
ここは駅前広場であり、
人を待っていたり、一休みするための場所である。
もしもこのベンチにこういう姿勢をとっている群衆が出現したなら、
異様な雰囲気になっただろう。
新興宗教の一団のように思えたかもしれない。
つまり、
これほどたくさんの人が、一箇所に集まり、
同じ姿勢で、肌を寄せ合い、同じ形のものに熱中するという光景は、
以前にはなかったことなのだ。
21世紀のいまは、世界中どこを見まわしても当たり前にあって、
何の不思議も感じないというのに!
ベンチの左横には低い柱状のものがあり、
表面にグラフィティーが描かれている。
頭や嘴の印象からすると、フクロウかミミズクのようだ。
大きなぎょろ目で、同じ姿勢で静止している人間たちを見つめているさまが、
眉をひそめているようにも、呆れているようにも見える。
ここで冒頭の「密」の話題にもどると、
いまこの写真からわたしたちが受け取る恐れを、
「本の時代の人々」と共有することはできない。
人や物や建物が稠密な状態にあるのは都市では当然であり、
何も恐れることではなかったのだから。
「マスク時代」に入って見え方が激変してしまったのだ。
大竹昭子(おおたけあきこ)
●作品情報
タイトル:『888前夜』より
写真:上出優之利
●作家紹介
上出 優之利(Masanori Kamide)
大阪府出身。1980 年代より DJ / ミュージシャンとして 30 年間活動。2011 年の震災を機に、写真家に転向、 ストリート・スナップからポートレイトまで、人物を主な被写体として活動中。福生の伝説的ディスコや、 歌舞伎町のポールダンサーたちなど、コミュニティを内側から捉えるスタイルも好評を博し、写真集『モ ノクロのブルース』で 2017 年土門拳文化賞奨励賞を受賞。
OFFICIAL SITE: www.masanorikamide.com
●写真展のお知らせ


●上出優之利写真展「888前夜」
日程:2021 年 4 月 17 日(土)- 5 月 1 日(土)
時間:12:00-20:00 日曜休
会場:Flying Books
住所:渋谷区道玄坂1-6-3渋谷古書センター2階
*現在開催中の上出優之利写真展「888前夜」ですが、会場のFlying Booksが緊急事態措置により休業となるため、一旦中断させていただき、会期を改めて、再開させていただきます。販売サイト(https://www.mocmmxw.com/buy/new-888zenya/)こちらで情報をアップデートして参ります。急なお知らせで申し訳ございませんが、何卒ご理解の程、よろしくお願い申し上げます。
●日本外国特派員協会 特別写真展
日程:2021 年 5 月 10 日(月)- 6 月 4 日(金)
時間:10:00-18:00 土日祝日休
会場:公益社団法人日本外国特派員協会(FCCJ)
住所:千代田区丸の内 3-2-3 丸の内二重橋ビル 5 階
入場:無料(FCCJの規定により20歳未満の方は入場いただけません。)
●写真集のお知らせ
書名:『888 前夜』著者:上出優之利
監修:山路和広 (Flying Books)
デザイン:星野貴幸 (hoshino design office)
仕様:並製/A4変形/本文160頁+表周り
定価:2,750 円(税込)
発売:2021年4月
発行:株式会社 HEG
ご購入はこちらからお願いします。
●新刊のお知らせ
大竹昭子さんがはじめた書籍レーベル<カタリココ文庫>から新刊『五感巡礼』がでました。日本経済新聞「プロムナード」の連載を再構成した随想録で、ひとつのエピソードが思わぬ方向に発展して五感を巡礼していきます。
全国の特約書店および通販でお求めいただけます。
https://katarikoko.stores.jp/
●塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」全6回の連載が完結しました。
塩見允枝子先生には昨秋11月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきました。合わせて連載記念の特別頒布会を開催しています。4月28日ブログには第6回目となる特別頒布作品を掲載しました。フルクサスの稀少作品をぜひこの機会にコレクションしてください。●神奈川県立近代美術館 葉山館で9月5日まで「開館70周年記念 空間の中のフォルム―アルベルト・ジャコメッティから桑山忠明まで」が開催中。レストルームでは5月16日まで宮脇愛子のガラス作品が展示されています。
同時に若林 奮の「新収蔵作品展」が9月5日まで開催されています。
●東京国立近代美術館で5月16日まで「MOMATコレクション」が開催中。駒井哲郎、北川民次、松本竣介、瑛九などが展示されています。
●東京・アーティゾン美術館
5月9日(日)まで「Steps Ahead: Recent Acquisitions 新収蔵作品展」が開催中。オノサト・トシノブ、瀧口修造、元永定正、倉俣史朗など現代美術の秀作が多数展示されています。3月13日ブログに番頭おだちの観覧レポートを掲載しました。●埼玉県立近代美術館で5月16日まで「コレクション 4つの水紋」が開催中。倉俣史郎の名作「ミス・ブランチ」が出品されているほか、ときの忘れものが寄贈した瑛九(コラージュ)や靉嘔の版画も展示されています。4月17日ブログにスタッフMの観覧レポートを掲載しました。
●新装なった板橋区立美術館
5月23日まで「さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち」展が開催中。松本竣介、難波田龍起、福沢一郎、オノサト・トシノブらの戦前・戦中期の作品が展示されています。担当学芸員の弘中智子さんによる展覧会紹介は4月22日ブログに掲載しました。
招待券を少しいただきました。ご希望の方はメールにてお申込みください。
●東京・天王洲アイルの寺田倉庫 WHAT
佐藤研吾《シャンティニケタンの住宅》、Nilanjan Bandyopadhyay5月30日まで「謳う建築」展が開催中。佐藤研吾が出品しています。
番頭おだちの観覧レポートは5月6日ブログに掲載予定です。
●栃木県真岡市・久保記念観光文化交流館
6月14日まで久保貞次郎旧蔵の版画と素描による「関根伸夫展」が開催中。久保記念観光文化交流館については2018年11月19日ブログ「第一回久保貞次郎の会~真岡の久保講堂を訪ねて」をお読みください。
三回忌となる5月13日ブログで関根伸夫の位相絵画をご紹介します。
●宮崎県立美術館で6月22日まで「第1期コレクション展」が開催中。今年生誕110年を迎えた瑛九の油彩、水彩、版画、フォトデッサンなど32点が展示されています。
●和歌山県立近代美術館で7月4日まで「コレクション展 2021-春」が開催中。菅井汲、元永定正、吉原英里などが展示されています。
●大分市美術館で7月11日まで「第1期コレクション展/生誕110年 糸園和三郎と"自由美術"」が開催中。瑛九のリトグラフ3点が展示されています。
●富山県美術館で7月13日まで「瀧口修造コレクション 瀧口修造の肖像Part 1 松澤宥・加納光於・合田佐和子」が開催中。瀧口修造と三人の交流をふりかえる展示がされています。
●中国の上海と広東省仏山市で安藤忠雄展
上海の復星芸術センター(Fosun Foundation)で6月6日まで「安藤忠雄:挑戦」が、広東省仏山市の安藤忠雄設計による和美術館(He Art Museum)で8月1日まで「BEYOND:ANDO TADAO and ART」が開催中。4月26日ブログでスタッフSが二つの安藤展を紹介しています。●ときの忘れものが青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転して3年が経ちました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会(Web展)を開催しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18~24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
E-mail:info@tokinowasuremono.com
営業時間=火曜~土曜の平日11時~19時。*日・月・祝日は休廊。
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