軽井沢における倉俣史朗の展示

中村 惠一


 倉俣史朗の展示を見るために訪問した軽井沢現代美術館は離山の麓にあった。軽井沢駅と中軽井沢駅との中間、距離は離れているが浅間山の側火山である離山に登る坂道を歩くと軽井沢歴史民俗資料館がある。大きな道路から一本山側に入っただけなのに木々は密度をあげ、緑は美しかった。また、「熊出没中、注意」の看板があって驚かされた。その道をさらに山にむかって歩くと図書館があり、そのさきに軽井沢現代美術館はある。

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軽井沢現代美術館の外観

 周囲は離山の自然が濃く、この時期(6月上旬)の木々の輝くような緑の美しさに圧倒されるようであった。しばらく屋外のベンチでさわやかな高原の風ときらめく陽光を楽しんだのだが、ハルゼミだろうか、林からまるで降り注いでくるような声が聞こえていた。そうした自然に身をゆだねてゆったりした時間を過ごした上で美術館に入ったのだった。

 軽井沢現代美術館は2008年夏にオープンした。もともとはJRの保養施設であったものを全面的にリノベーションし、自然な外光を取り入れている点がとてもユニークである。もちろん美術館のサイズなので個人の住宅とは違うのだが、初夏の輝く光と緑が展示空間にも入り込んでいるさまは美しく、とても親しみを感じる空間となっていた。そのいくつかある展示空間の一室で「倉俣史朗 カイエ」は展示されていた。

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「倉俣史朗 カイエ」展の全体風景

 美術館の受付を通り左右にある展示会場に向かうエントランス部分には大きな窓があって木々の緑が反射した陽光があふれていた。その残像を残しながら左手にある倉俣史朗のコーナーに入る。1階の常設展示室がその部屋の名前のようだ。もちろんこのコーナー内に窓がきられているわけではないのだが、光線の質が違って見えていた。また、多くは無機質な空間である場合が多い展示室であるが、窓の存在やむきだしの天井の配管などが印象を変えていた。倉俣のシャープなデザインはきわめて無機質なシンプルな空間を好むのではないかと勝手に思っていたので、日常の生活空間のなかでも大いにその存在感を発揮するだろうことを改めて実感できた。もともとアクリルにとじこめた色彩や植物、たとえば「薔薇の封印」のような作品が実体化されているが、その発想の原点であるドローイングがまるで倉俣の脳内を覗けるかのように展示されていて楽しかった。時の過ぎるのを忘れてしまいそうでもあった。窓から外のしかも自然な緑を室内にいれた空間での倉俣の作品展示は倉俣のデザインのベースにある生命への慈しみのような核を顕在化していたのではないかと感じた。

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《How high the Moon》

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《薔薇の封印》

 軽井沢現代美術館の全体展示のコンセプトは「海を渡り、海外で高い評価を得ている日本人アーティスト」であり、そのコンセプトに合致した作品をコレコションし、展示している。このコンセプトでは必ず登場する草間彌生や奈良美智などはもちろん、元具体のメンバーたちが展示されているなかで、あまり取り上げられていない気がする名坂有子が展示されていたのがうれしかった。
 軽井沢現代美術館はそのホームページのなかで「アートをめぐる観光ツアーとして美術館にいらっしゃいませんか」と呼びかけていた。倉俣史朗を見るために軽井沢まで足を伸ばしたのだからと開館展のとき以来伺っていなかったセゾン現代美術館にも40年以上ぶりに訪問することになり、結果として美術館のリコメンド通りの旅になった。軽井沢は新緑の美しい時期が一番美しいと地元の方に言われたが、その美しい季節に訪問することで、倉俣のデザインの魅力を再発見できたことがとてもうれしかった。
なかむら けいいち

●「倉俣史朗展 カイエ
会場:軽井沢現代美術館
長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉2052-2
会期:2023年4月27日(木)~11月23日(木・祝日)
休館日:火曜、水曜 (GW及び、夏期は無休開館

■中村惠一(なかむら けいいち)
北海道大学生時代に札幌NDA画廊で一原有徳に出会い美術に興味をもつ。一原のモノタイプ版画作品を購入しコレクションが始まった。元具体の嶋本昭三の著書によりメールアートというムーブメントを知り、ネットワークに参加。コラージュ作品、視覚詩作品、海外のアーティストとのコラボレーション作品を主に制作する。一方、新宿・落合地域の主に戦前の文化史に興味をもち研究を続け、それをエッセイにして発表している。また最近では新興写真や主観主義写真の研究を行っている。

倉俣史朗の限定本『倉俣史朗 カイエ Shiro Kuramata Cahier 1-2


限定部数:365部(各冊番号入り)
監修:倉俣美恵子、植田実
執筆:倉俣史朗、植田実、堀江敏幸
アートディレクション&デザイン:岡本一宣デザイン事務所
体裁:25.7×25.7cm、64頁、和英併記、スケッチブック・ノートブックは日本語のみ
価格:7,700円(税込) 送料1,000円
詳細は3月24日ブログをご参照ください。
お申込みはこちらから


*画廊亭主敬白
ときの忘れものの最も古い顧客の一人(なにしろ現代版画センター時代から)、中村惠一さんから39回目の寄稿をいただきました。
軽井沢の高原文庫での「没後15年記念 松永伍一展~詩・絵画・子守歌…~」のレビューと併せお読みください。

こちらも古い付き合いである塩野哲也さんが発行するウエブマガジンColla J コラージ が軽井沢特集を組んでいますので、塩野さんのご許可をいただき、紹介させていただきます。転載、複写はご遠慮ください。
Screenshot 2023-07-08 at 17-39-19 Colla J コラージ 菖蒲華月刊フリーWebマガジン Colla:J(コラージ)
「秘密の庭園 軽井沢 The Secret Garden」
 軽井沢にて最近の別荘実例や特有の地盤、不動産事情を取材。
 後半では軽井沢高原文庫へ移築されている、
 有島武郎、堀辰雄、野上弥生子の別荘をはじめ、
 辻 邦生 山荘(設計:磯崎新)をご紹介します。
 [ 特集1 ]
 世界をめぐり軽井沢へ 千ヶ滝別荘地 M邸
 文化村の建設現場 軽井沢特有の地盤
 不動産のプロに聞く 軽井沢の「土地探し」
 [ 特集2 ]
 軽井沢高原文庫 文人の別荘
 野上弥生子「鬼女山房」
 堀 辰雄「1412番山荘」
 有島武郎「浄月庵」
 辻 邦生 山荘 設計 磯崎新
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*無断転載・複写を禁じます。
ときの忘れもののブログでは著作権者・シオングの許可をいただいて掲載させていただいています。

●ときの忘れものは「ART OSAKA 2023」に出展します。
魔法陣_2000会期:2023年7月28日(金)~30日(日)
会場:Osaka City Central Public Hall 3F(大阪市中央公会堂)
出品作家:倉俣史朗葉栗剛瑛九仁添まりな植田正治、他
詳しくはコチラを参照してください。

ジョナス・メカスの映像作品27点を収録した8枚組のボックスセット「JONAS MEKAS : DIARIES, NOTES & SKETCHES VOL. 1-8 (Blu-Ray版/DVD版)」を販売しています。
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各作品の撮影形式:16mmフィルム、ビデオ
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