森本悟郎のエッセイ その後 第45回(最終回)

種村季弘(1933~2004) (2)奇想の展覧会


種村さんから打診を受けた展覧会は、開催に際して大学当局・運営委員会ともに了解を得るには意義も内容も十分だったから、課題は会期と予算2点にあった。種村さんは画廊春秋での開催(’98年7月20日~8月1日)からできるだけ近い時期の開催を望んでおられたが、それでは夏休み中となること、さらに勤務先の大学の予算は単年度制なので、年度途中の補正はよほどのことでない限り認められないことである。
しかしこれには前例がないわけではなかった。この年1月にC・スクエア第2会場(’06年1月閉場)で、特別展※1として開催した「どこかにいってしまったものたち クラフト・エヴィング商會不在品目録 1897-1952」展である。これは筑摩書房の松田哲夫さんからの依頼に応えて急遽引き受けたものだった。この時の条件は〈会期は当該年度の企画展を了えたあと〉と〈経費をギリギリにまで抑制する〉のふたつ。実際、人件費節約のため、作家たちとともに会社取締役だった松田さんも展示作業に奮闘していた。
ということで、前例に倣って会期は翌 ’99年新春からとし、経費は企画展予算を少しずつ削ってプールするということで、大学当局・運営委員会・種村さんの了解を取りつけた。2000年頃までは予算に幾分ゆとりがあったのが幸いした。
「種村季弘『奇想の展覧会』——戯志画人伝[実物大]」は ’99年1月9日から2月27日にかけて開催した。会期を長くしたのは、種村さんが渾身の力を注いだ展覧会※2へのぼくなりのリスペクトと、会期中に定期試験や入学試験があることによるものである。出展作家は中西夏之、吉野辰海、清水晃、井上洋介、秋山祐徳太子、谷川晃一、平賀敬、吉村益信、赤瀬川原平、横尾忠則、横尾龍彦、渡辺隆次、木葉井悦子、杉本典巳、片山健、スズキコージ、合田佐和子、野中ユリ、一原有徳、長岡国人、川原田徹、清原啓子、森ヒロコ、梅木英治、四谷シモン、九谷興子、菊畑茂久馬、池田龍雄、田中信太郎、篠原有司男、桑原弘明の31人※3。種村好みの錚々たる日本人美術家たちが揃った。この展観は美術エッセイ集『奇想の展覧会 魏志画人伝』出版を記念したもので、そこに登場した27人に4人の友情賛助作家を加えた種村季弘キュレーションのグループ展である。著書で紹介した作品の〈実物〉を展示するというコンセプトにもとづいたものだった。もちろんすべて口絵の実物が揃えられたわけではなかったが、1冊の書から生まれた展覧会というのは画期的な試みといえよう。

001種村季弘『奇想の展覧会 魏志画人伝』河出書房新社、1998


初日には種村・谷川・四谷3氏によるトークイベントを開催。オープニングレセプションには出展作家や関係者はじめ多くの来場者で賑わった。この展覧会がNHK「新日曜美術館」で紹介されたというのは以前書いた※4

002トークイベント (左から)谷川晃一、種村季弘、四谷シモン 撮影:銭谷均


螻慕、コ鬚ィ譎ッ-1展示風景


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思えばこの ’99年というのが種村さんの晩年では一番輝いた時だったかもしれない。秋には著作集『種村季弘のネオ・ラビリントス』で第27回泉鏡花文学賞を受賞し、中華料理屋で開かれた二次会では親しい仲間に囲まれて、たいそうご機嫌だった。
’00年4月に種村さんの雑誌取材にお供して、岐阜県の揖斐川と養老の滝に出かけたときはよく歩き、カメラマンへてきぱきと注文をつけていた。しかしその2年後に悪性リンパ腫が見つかり、翌年がんの手術。リハビリに努めるも ’04年8月不帰の人となった。享年71。
没後10年経った ’14年9月から10月にかけて「種村季弘の眼 迷宮の美術家たち」展が板橋区立美術館で開催された。生前種村さんが愛し、論じた国内外の作家たちの作品を糾合した展覧会である。

003「種村季弘の眼 迷宮の美術家たち」展ポスター

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本ブログは今回で終了します。3年9カ月にわたってこのような場を用意してくださった「ギャラリーときの忘れもの」の綿貫ご夫妻、ウェブページにアップの労を執ってくださったスタッフの方々、そして連載にお付き合いくださった皆さまに心から感謝申し上げます。
今後はウェブサイトを移し、4月からタイトルも新たに再開の予定です。〈http://03fotos.com/03magazine/〉を訪ねてみてください。

※1 「第○○回企画」と謳わない、C・スクエアのオリジナル企画とは異なる展覧会の呼称。「奇想の展覧会」も特別展として開催された。
※2  画廊春秋では「奇想の展覧会」開催前日の飾り付けの指揮まで執っていた。初日の種村さんはじつに溌剌としていて健康そのものに見え、3年前の脳梗塞からすっかり立ち直ったようだった。
※3 中西夏之から菊畑茂久馬までは著書の登場順。池田龍雄、田中信太郎、篠原有司男、桑原弘明は賛助作家。
※4 当ブログ「第33回 井上洋介 (3)井上さんを介して」(2016年12月)。


もりもと ごろう

森本悟郎 Goro MORIMOTO
1948年名古屋市生まれ。1971年武蔵野美術大学造形学部美術学科卒業。1972年同専攻科修了。小学校から大学までの教職を経て、1994年から2014年3月末日まで中京大学アートギャラリーC・スクエアキュレーター。展評、作品解説、作家論など多数。現在、表現研究と作品展示の場を準備中。

森本悟郎のエッセイ「その後」は今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。

●今日のお勧め作品は、鬼海弘雄です。
20171110_kikai_01鬼海弘雄
〈アナトリア〉シリーズ
《22羽のアヒルと冬の気球(トルコ)》

2009年撮影(2010年プリント)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:29.1×43.6cm
シートサイズ:40.5×50.5cm
Ed.20 裏面にサインあり

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

◆ときの忘れもの今年最後の企画「WARHOL―underground america」は本日が最終日です。
201712_WARHOL

1960年代を風靡したアングラという言葉は、「アンダーグラウンドシネマ」という映画の動向を指す言葉として使われ始めました。ハリウッドの商業映画とはまったく異なる映像美を目指したジョナス・メカスアンディ・ウォーホルの映画をいちはやく日本に紹介したのが映画評論家の金坂健二でした。金坂は自身映像作家でもあり、また多くの写真作品も残しました。没後、忘れられつつある金坂ですが、彼の撮影したウォーホルのポートレートを展示するともに、著書や写真集で金坂の疾走した60~70年代を回顧します。
毎日15時、16時、17時の三回メカス映画「this side of paradise」を上映します
1960年代末から70年代始め、暗殺された大統領の未亡人ジャッキー・ケネディがモントークのウォーホルの別荘を借り、メカスに子供たちの家庭教師に頼む。週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり、皆で過ごした夏の日々、ある時間、ある断片が作品には切り取られています。60~70年代のアメリカを象徴する映像作品です。(予約不要、料金500円はメカスさんのNYフィルム・アーカイブスに送金します)。

●書籍のご案内
版画掌誌5号表紙600
版画掌誌第5号
オリジナル版画入り美術誌
ときの忘れもの 発行
特集1/ジョナス・メカス
特集2/日和崎尊夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版ーA : 限定15部 価格:120,000円(税別) 
A版ーB : 限定20部 価格:120,000円(税別)
B版 : 限定35部 価格:70,000円(税別)


TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別) *送料250円
*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。


安藤忠雄の奇跡安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
価格:2,700円(税別) *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。
ときの忘れもので扱っています。

国立新美術館の「安藤忠雄展―挑戦―」は、大盛況のうちに終了しました。
展覧会については「植田実のエッセイ」と「光嶋裕介のエッセイ」を、「番頭おだちのオープニング・レポート」と合わせ読みください。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜~土曜の平日11時~18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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