ときの忘れもの 今月のお勧め
■2010年02月28日(日)  服部冬樹「90 Minutes JESSICA I」
nicky_20100228.jpg 390×600 171K服部冬樹
「90 Minutes JESSICA I」
1991年
cibachrome
シートサイズ:50.4x40.3 cm
Ed.3/3
右下にサイン、裏にもサインあり

孤高の写真家・服部冬樹の作品をご紹介いたします。
ポンピドー・センター/フランス国立近代美術館写真部門主任学芸委員を勤めたアラン・サヤグは、かつて服部の写真を「単調な灰色のあの光沢のある紙の小さな長方形ではなく、美しいオブジェだ。」と評しました。今回の作品はフォルムを追求したシリーズの1点「90 Minutes JESSICA I」で、まさにオブジェのような美しい作品です。「90 Minutes JESSICA I」は、7点のシリーズの中の1点で、3点は顔の見えないトルソ的な作品、他の4点は、この作品のように頭に手を添えたポーズの連作になっています。

服部冬樹 Fuyuki HATTORI(1955-)
1955年、北海道札幌市に生まれる。1978年、日本大学芸術学部写真学科卒業。大学時代にチェコスロヴァキアの写真家ヨゼフ・スデックの静物写真から影響を受け、花や花瓶を題材として制作を行っていたが、その後ヌード作品のシリーズを手がける。「快楽やエロティシズムを漂わせる肉体」という別の対象に移行しても、人体を「静物」として捉えるアプローチは、一貫している。
在学中の77年に初の個展を開催(日本大学芸術学部図書館ギャラリー)。80年代からは主としてツァイト・フォト・サロンなどで発表活動を続ける。服部は、タゲレオタイプからチバクロームまで写真史上のさまざまな技法を再現し、作品としての写真が注目されている現在にあって、写真の美的側面だけでなく、その歴史そのものを現在に凝縮することで、写真とは何かという問いかけを提出している。

■2010年02月20日(土)  マン・レイ「シュルレアリスム展」
nicky_20100220.JPG 427×600 98Kマン・レイ
「シュルレアリスム展」
1936年(1987年プリント)
ゼラチンシルバープリント
29.0×20.5cm
裏面にスタンプとピエール・ガスマンのサインあり

マン・レイの「シュルレアリスム展」です。7月から東京の国立新美術館、そのあと9月からは大阪の国立国際美術館で「マン・レイ展」が開催される予定で、またマン・レイ・ブームが来るのではないかと期待しておりますが、ときの忘れものでも9月に「瑛九とマン・レイ(仮題)」展を企画中です。
この作品は、1936年にパリのシャルル・ラットン画廊で開催された記念すべき初めての「シュルレアリスムのオブジェ展」の展示風景をマン・レイが撮影したものです。右側の壁にはマン・レイ自身の「リンゴとねじ釘」や「反射(1929年)」などの作品が展示されています。
シャルル・ラットン画廊は、中世美術やアフリカ美術、プリミティブ美術を主に扱っていましたが、当時の現代美術にも興味を持っており、この展覧会を開催しました。このときの出品作家は、マルセル・デュシャン、サルヴァドール・ダリ、ドラ・マール、メレット・オッペンハイム、ハンス・ベルメール、アンドレ・ブルトン、ルネ・マグリット、マルセル・ジャン、クロード・カウン、そしてマン・レイという錚々たる顔ぶれで、このあと、ロンドンやMOMAなどでも同様の展覧会が行われることになります。
なお、シャルル・ラットン画廊は、現在でもGalerie Ratton-Ladrièreとして、パリに店があります。
今日ご紹介した作品は、1981年に朝日新聞社から刊行された「マン・レイ写真集」にも所収(No.39)されていますが、このプリントは、1987年にピエール・ガスマンによってプリントされたもので、マン・レイのスタンプの他にガスマンの自筆サインもあります。

マン・レイ Man RAY(1890-1976)
1890年生まれ。アメリカの画家、彫刻家、写真家。ダダイストまたはシュルレアリストとして、多数のオブジェを制作したことでも知られる。レイヨグラフ、ソラリゼーションなど、さまざまな技法を駆使し、一方でストレートなポートレート(特に同時代の芸術家のポートレート)も得意とし、ファッション写真と呼べるような作品もあったりと、多種多様な写真作品群を残している。

■2010年02月10日(水)  マニュエル・アルバレス・ブラーヴォ「腰をおろす人々」
nicky_20100210.jpg 600×466 134Kマニュエル・アルバレス・ブラーヴォ
「腰をおろす人々」
c.1932-1934(Printed later)
ゼラチンシルバープリント
22.4×29.5cm
サインあり

この「腰をおろす人々」という作品は、昼間からバーのカウンターに並んで酒を飲んでいる気楽な写真に思えます。しかし、彼らの足元に目をやると、鎖が亘っています。それは椅子をつないだ鎖ですが、あたかもカウンターに腰掛ける人たちをつなぐ鎖にも見えて、昼間から酒でも飲んでいなければならない彼らの境遇に思いが行きます。
ブラーヴォのプリントは、通常8x10インチの印画紙にプリントされ、それ以外のサイズはめったにないとアメリカのギャラリーの方に伺いましたが、このプリントは10x12インチあり、それだけでも稀少ですが、裏にある「M.アルバレス・ブラーヴォ」というサインは初期のもので珍しいそうです。どうぞメキシコの巨匠の作品をコレクションにお加えください。

マニュエル・アルバレス・ブラーヴォ Manuel Alvarez BRAVO(1902-2002)
1902年メキシコ・シティーに生まれる。祖父が画家・写真家、父親が画家・作家であったことから、幼少から広いジャンルのアートに触れて育ち、メキシコ革命(1910年〜1920年)の激動の中で少年時代を送る。1920年代前半から写真に興味を持ち始め、ティナ・モドッティやエドワード・ウェストンらとの接点もあり、彼らの影響を受けて写真を始める。メキシコの持つ独自の生活文化を常に意識しながら、海外のアート動向も積極的に取り入れる。また、アンドレ・ブルトンに出会ったことでシュルレアリスムも意識するようになった。
しかし初期の実験的な写真には満足せず、パーソナルなスタイルが確立した1940年代に多くの初期作品を破棄し、1960年〜70年代にかけてはカラーやプラチナプリントを手掛けている。ブラーヴォの作品は、ドキュメンタリー写真や人物・風景写真が中心となる、メキシコの日常的な対象を撮影したものが多いが、そこには南米の神秘的な空気感、生や死が感じられる。1955年ニューヨーク近代美術館の『ファミリー・オブ・マン』展に出品。1970年代にはその評価が欧米で認められるようになり、現在では南米を代表する写真家として高い評価を受けている。2002年歿。

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