ときの忘れもの 今月のお勧め
■2012年05月30日(水)  小川信治「Perfect World より Perfect Crown」
ogawa_21_perfect.jpg 600×431 20K小川信治 Shinji OGAWA
Perfect World より Perfect Crown
2000年 油彩・キャンバス
12.1×17.2cm
サインあり
*作家サインのある桐箱入り

1997年に東京では初めての個展をときの忘れもので開催し、2000年、2003年にも新作個展で次々と新しいシリーズを発表した小川信治の新着作品をご紹介します。
小川信治は、抜群の精緻な描写力で「世界」のイメージを多層的に交錯させる作品で注目を集めてきました。彼の「PERFECT WORLD」シリーズの一点です。

小川信治は一貫して、見慣れた情景を改変して、私たちが普段見ているものとは別の世界の可能性を探ってきました。油彩のみならず、鉛筆画や映像にも表現領域を広げています。
----------------------------------------
「アートは私にとって世界を認識していく作業だ。かつては何かを認識するのにいきなりアナログな実験をしていたが、今日でコンピュータによるシミュレーションがそれにとって変わっている。まず場を作り、環境を与え、計算させる。私の制作スタイルもそういったプロセスに似てるように思える。日々のくらしの中で不思議に思うことはたくさんある。いったいなぜなんだろう、と考えていくちに自分の体験に基づいた仮説らしきものがふと頭をよぎる。その仮説を検証していくことそのものがアート行為となってでてくる。小川信治の検証のやりかたはいまのところ3つある。

世界や存在の流動性を考えていくための手法…………………“WITHOUT YOU”

宇宙や世界の大きさや重なりを考えていくための手法………“PERFECT WORLD”

時間と空間など、次元のことを考えていくための手法………“CHAIN WORLD”などの映像作品」

2000.7.29  小川信治
----------------------------------------
今回ご紹介する作品を制作したころの小川自身の述懐です。

小川さんが若い頃「小磯良平よりうまくかけちゃう(笑)自分の腕をどうしたら現代美術で展開できるか悩んだ」とおっしゃっていたのを印象深く思い出します。
そしてたどり着いたのが、[WITHOUT YOU]シリーズと、[PERFECT WORLD]シリーズでした。
これらは、「私たちが信じて疑わないもの、普通だと確信しているものが既に異形のものへと変化し始めているという直観につき動かされて制作を始めた」と小川信治は言っています。
極めて伝統的な技法を用いながら、小川信治の精緻な描写力をもって初めて可能である大胆な試みをさまざまに展開し続けています。

小川信治(1959-)
1959年山口県生まれ。83年三重大学教育学部美術科卒業。97年・00年・03年にときの忘れものにて個展[小川信治展Without you]を開催。2000年豊田市美術館[空き地]展。03年東京・レントゲンヴェルケで個展。06年大阪・国立国際美術館[干渉する世界]展。

■2012年05月20日(日)  ジェリー・N・ユルズマン「Untitled」
grp0519190509.jpg 437×600 80Kジェリー・N・ユルズマン
Untitled
1976年
ゼラチンシルバープリント
33.5x24.3cm
サインあり

本棚と暖炉のあるビクトリア朝様式の瀟洒な部屋。書き物机の上には、地図が拡げられ、その地図の上に重ねられた本の上には、小さな人物があたかも物思い耽るかのように頭を下げて立っています。部屋の天井が抜き取られたような状態になっていて、広がる空には雲が立ちこめ、雲の隙間から差し込む光は、小さな人物の影法師を作り、また机の下に敷かれた豪華な絨毯の上にも影を落としています。
ジェリー・N・ユルズマン(Jerry N. Uelsmann, b.1934)の代表作として知られるこの作品は、「The Philosopher's Study(哲学者の書斎)」と通称されてもいます。本や地図の中から立ち上がる人物の姿は、書斎の中に籠もって思索する哲学者を、頭上の空は無限に広がる思弁の世界を象徴的に表していると読み解き、解釈することもできるでしょう。
ジェリー・N・ユルズマンは、ロチェスター工科大学在学中の1950年代末から合成写真の作品制作を始め、以降大学で写真教育に携わりながら、制作を続けてきました。彼の制作手法は、複数枚のネガを元に、暗室作業を繰り返してプリントに焼き付けていくというもので、場合によっては、一枚のプリントを焼き付けるために10台近くもの引伸機が使われています(図2)。複数のネガを組み合わせることによって、頭の中で思い描いた超現実的で幻想的な光景を、暗室の中で印画紙の上に構築してゆくユルズマンは、まさしくイメージの錬金術師と呼ばれるに相応しいでしょう。

ジェリー・N・ユルズマン Jerry N. Uelsmann(1934-)
1934年アメリカ、ミシガン州デトロイト生まれ。ロチェスター工科大学、インディアナ大学で学んだ後、フロリダ大学で写真を教える。今では珍しくなくなった、さまざまな技法によって写真に手を加えた「作られた写真」だが、ユルズマンが写真を作り始めた1960年代は、撮影の際に表現の基本的な性格づけが行なわれるべきだとする「ストレート写真」が基調をなしていた時代であった。複数のイメージを暗室作業の過程で自由自在に組み合わせる技法を用いてシュールな作品世界を作ってきたユルズマンは、「作られた写真」を現代に甦らせた先駆者の一人である。

■2012年05月10日(木)  関根伸夫「G3-15 裏返る円」
nicky_20120510.jpg 493×600 74K関根伸夫
「G3-15 裏返る円」
1987年
ミクスド・メディア
27.5×22.6cm
サインあり

「もの派」といえば、李禹煥と関根伸夫。
ときの忘れもののコレクションから関根伸夫作品をご紹介しましょう。

3月21日の朝日新聞夕刊に「もの派」の展覧会/Requiem for the Sun: The Art of Mono-haがアメリカ・ロサンゼルスのプラム&ポー画廊で開催されているという記事が掲載されました。

富井玲子さんという美術家によるレポートですが、われわれ日本の画商にとっては実に耳の痛い話であります。(以下、引用)

--------------------------------
 「もの派」展は国内でも海外でも何回か開催されてきた。が、本展は、展示の美しさとインパクトで傑出しているだけではなく、世界美術史という舞台で日本の現代美術がいかに歴史化に耐えていくか、という緊急課題に正面から取り組んだ点で重要だ。
 戦後日本美術、特に60、70年代の現代美術は、その先鋭な実験性でこれまでも海外で高い美術史的評価を得てきた。しかし、世界美術史における定着度は必ずしも高くなかった。
それは、美術には審美的・学術的評価とは別に、作品のモノとしての市場的評価があるからだ。これは単に商品売買の問題ではない。個人コレクターに収集され、さらには美術館の収蔵品となることでモノとしての評価が固まっていく。これが学術的評価と連動して総合的評価となり歴史に定位置を確保する。
 特に「もの派」の作品は一回性の設置として構想されることが多いので、モノとしての作品が残らないきらいがある。
 本展は、吉竹美香という堅実な「もの派」研究者がゲストキュレーターを務めて学術的評価を目に見える形で提示するとともに、商業画廊が作品のモノ化(永続化)に熱心に取り組んで市場的評価の向上をめざし、それを受けて立った作家たちが全面的に協力して成立した稀有(けう)な企図である。そのうちどの一者が欠けても、本展は画竜点睛(がりょうてんせい)を欠いたことだろう。
--------------------------------

画商の務めは「作品のモノとしての市場的評価」を高めることであり、美術館に任せておけばよいというのではいつになっても日本の美術を世界の舞台に押し上げることはできません。
私たちもささやかですが、上記のような「稀有な企図」をもつ企画の実現に邁進したいと思います。

関根伸夫 Nobuo SEKINE(1942-)
1942年埼玉県生まれ。68年多摩美術大学大学院油画研究科卒業。同大学で斉藤義重に師事。第8回現代美術展、神戸須磨離宮公園現代彫刻展、第5回長岡現代美術館賞展などで次々と受賞。美術界に旋風を巻き起こす。日本発の現代美術ムーブメント[もの派]を代表する作家として活躍する。70年ヴェニス・ビエンナーレ出品。73年環境美術研究所設立。78年デンマーク・ルイジアナ美術館他でヨーロッパ巡回展を開催。

過去の記事 2004年06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2005年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 12月 
2006年01月 03月 
2009年02月 03月 05月 06月 11月 12月 
2010年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2011年01月 02月 04月 05月 06月 07月 08月 09月 10月 11月 12月 
2012年01月 02月 03月 04月 05月 06月 07月 
2013年02月 03月 04月 05月 06月 07月 
2014年04月 05月 06月 07月 08月 
2016年10月 11月 

一覧 / 検索