ときの忘れもの 今月のお勧め
2012年04月30日(月) 
nicky_20120430.jpg 481×600 36Kジョエル=ピーター・ウィトキン
<Tibet House Portfolio>より
“Woman once a Bird”

1990年
プラチナプリント
イメージサイズ:31.6x27.0cm
シートサイズ:40.0x33.0cm
Ed.35/100
サインあり

「私の作品は見捨てられた人間、英雄、聖者の世界に関与するもので、超自然的なもの、社会のパラノイア、そして現代の不確かな道徳観に関わるものである。」
[ウィトキン『Switch』1993年11月号]

ホルマリン漬けになった奇形児や異形の人たちを撮影するウィトキンの写真には、見捨てられて来た人々を執拗なまでに追いかける圧倒的な迫力と打ち捨てられた生の断片を再生させる力強さがあります。
1939年アメリカ、ニューヨーク市ブルックリンに生まれたウィトキン、ユダヤ人である父親とローマ・カトリック教会の母親は彼が幼い頃に宗教上の違いを理由に離婚し、以後兄と共に母親に引き取られ、厳格なカトリックの環境で育ちます。幼い頃に交通事故現場に居合わせ、そこで少女の生首と向き合うというショッキングな経験をしたウィトキンの感性は他者のそれとは一線を画し、「死」、「死体(またはその部分)」、「小人症・性転換・半陰陽・身体的障害者などさまざまなアウトサイダー」といったテーマを扱っています。

今回ご紹介する“Woman once a Bird”は、1990年にリチャード・ギアとビル・ボーデンがニューヨークのチベットハウスのために制作した“Tibet House Portfolio”に収録された作品です。そのポートフォリオは13x16インチのプラチナ/パラジウム写真24枚で構成され、収録されたのはいずれも著名な写真家であり、幾つかの作品は彼らの代表作にもなっています。
100のエディションと24のアーティストプルーフが制作され、全てのプリントに作家たちのサイン/エンボスが入っています。
以下がポートフォリオに作品が収録されている作家のリストです。

●Portfolio I
Berenice Abbott
Mario Giacomelli
Horst P. Horst
Annie Leibovitz
Matt Mahurin
Mary Ellen Mark
Kurt Markus
Sheila Metzner
Sebastiao Salgado
Jerry Uelsmann
Bruce Weber
Joel-Peter Witkin

●Portfolio II
David Bailey
Ruth Bernhard
William Claxton
William Clift
Ralph Gibson
Allen Ginsberg
Helmut Newton
Steve Meisel
Duane Michels
Herb Ritts
George Rodger

このポートフォリオは非営利団体であるギア財団によって企画され、危機に瀕しているチベットとその文化に注意を呼びかけるべく制作されました。ポートフォリオの売り上げはネットの運営費として使用され、ポートフォリオに含まれる作品は非営利団体へと受け渡され、人々のチベットへの関心を高めるべく使用されました。

ジョエル=ピーター・ウィトキン Joel-Peter WITKIN(1939-)
1939年、アメリカに生まれる。死体やフリークスなどの特異な被写体とエロティックかつ怪奇的な表現方法で非常にスキャンダラスな作品を制作しているが、一面、ルーベンスやゴヤのほか、クリムト、フェリシアン・ロップスらの19世紀末の象徴主義の作品からインスピレーションを得ている。

■2012年04月20日(金)  ロバート・メイプルソープ 《Helmut》
mapplethorpe_04_helmut.jpg 548×600 204Kロバート・メイプルソープ
<X -Portfolio>より "Helmut"
1978年
ゼラチンシルバープリント・ドライマウント
作品サイズ  :19.5cm×19.5cm
フレームサイズ:63.5cm×63.5cm
Ed.25
サインあり

1989年3月9日エイズで亡くなったロバート・メイプルソープは、42歳の生涯で「静物(主に花)」「ポートレート」「ヌード」「セックス」の4つのテーマをもとに優れた写真作品を制作しました。
率直で官能的な作品が美術館に収蔵されるか論議を呼び、日本でもニューヨークのホイットニー美術館が1988年に開いた回顧展のカタログが輸入禁止となり裁判にまで発展しました。
「わいせつ図画」とは何かを問う、この裁判では一審、二審で判決が異なり、2008年の最高裁判決は、このカタログ(写真集)を「メイプルソープ氏の写真芸術の全体像を概観するもの」と判断し、日本国内への持ち込みを禁じた税関の処分取り消しを命じ、国側敗訴が確定します。
下級審におけるわいせつ物認定が最高裁で取り消されるという画期的な判決でした。

ロバート・メイプルソープ
1946年ニューヨーク市に生まれる。16歳の時にブルックリンに転居しプラット・インスティチュートで絵画、彫刻を学ぶ。1967年に詩人で歌手のパティ・スミスと知り合い共同生活を開始。 この頃からポルノ雑誌を切り取ってコラージュの制作を開始したり立体、インスタレーションなどに取り組む。写真はポラロイドから始め、パティ・スミスなどの仲間を モデルにしたり、身の回りの静物を使い、構成、色彩、照明、サイズ、フォーマットなどの試行錯誤を行う。1976年にハッセルブラッドカメラを入手し、ネガフィルムによる作品制作を開始。1978年ミッドタウンの有名画廊ロバートミラーでパティ・スミスのポートレートを展示し、同画廊の専属となる。
メイプルソープは「静物(主に花)」「ポートレート」「ヌード」「セックス」の4つのテーマを主軸に制作を行った。
作品は性の解放や同性愛者の社会的権利など、当時の時代背景や社会問題と切り離せない関係にあるが、特に率直な官能表現の作品などは大いなる絶賛とバッシングの両方を受けることとなった。一枚の写真から構成や色彩、ライティング、サイズ、フレームなど細部に至るまで計算して被写体および構図の中にバランスと完璧さを求めた。1980年代に入ると名声は高まり、各界の有名人、著名人からポー トレート写真の依頼が寄せられるようになる。商業雑誌やイブ・サンローランなどの広告の仕事も行なうようにる。作品制作ではコマーシャルがきっかけでカラー写真にも取り組みはじめ、 1985年以降は多種多様な表現方法を模索し、麻にプラチナプリント、絹 にグラビア・プリントなどを開始する。1989年、歿。

■2012年04月10日(火)  細江英公 《1970年3月30日》
hosoe_03_19700330.jpg 600×483 46K細江英公
《1970年3月30日》
1970年
23.6×29.5cm
ゼラチン・シルバー・プリント
サインあり

カメラが手軽なものとなり、デジカメが驚異的な進化を遂げたいま、街の写真館はめっきり減ってきてしまいました。
ときの忘れものの近くにあった写真館も数年前に廃業し、いまはネールサロンか何かになっている。
今では正装をして「記念写真」をとる機会は結婚式くらいでしょうか。
私たちのように歳をとると、おめでたい席にはとんとお呼びがかからなくなり、呼ばれるのはお葬式や偲ぶ会ばかり…。
そういう席でも、「では皆さん、並んでください」といわれて記念写真をとることもない。
写真を撮らないわけではなく、むしろスナップ写真などは昔に比べたら多いくらいですが、「記念写真」というフォーマルな形式が敬遠されてきたのでしょうか。
かねてから細江英公先生は「記念写真」の重要性を力説されていますが、なかでも今回ご紹介するのは極め付きの記念写真です。
今から32年前の今日、撮影された作品です。

この年、細江先生は東北を舞台に舞踏家の土方巽を撮った『鎌鼬』で芸術選奨文部大臣賞を受賞されました。
細江先生は、ん十万だったかの賞金をはたいて土方巽はじめ関係者を招いて赤坂プリンスホテルのレストランでお礼の宴を開きます。
そのときの記念写真です。
写っているのは11人。凄いメンバーです。
細江先生の指示で、全員あらぬ方を見ていますが、ただひとり瀧口修造だけは指示に逆らって(というか無視して)カメラのレンズを見つめています。
後列左から、加藤郁乎横尾忠則高橋睦郎田中一光川仁宏種村季弘
前列左から、澁澤龍彦土方巽瀧口修造細江英公三好豊一郎

撮影場所は赤坂プリンスホテル旧館の中庭ですが、建物は李氏朝鮮最後の王世子(皇太子)である李垠(い・うん 1897-1970)の東京邸だったもので、戦後西武の堤康次郎が買取りホテルにしたもの。
1928年竣工のこの建物は、隣の新館(丹下健三設計、1983年)が解体が決まったのに対して今も瀟洒な佇まいを見せています。

細江英公
写真家。清里フォトアートミュージアム館長。1933年山形県生まれ。本名・敏廣。18歳のときに[富士フォトコンテスト学生の部]で最高賞を受賞し、写真家を志す。52年東京写真短期大学(現東京工芸大学)入学。デモクラート美術家協会の瑛九と出会い強い影響を受ける。54年卒業。56年小西六ギャラリーで初個展。63年三島由紀夫をモデルに撮った[薔薇刑]で評価を確立し、70年[鎌鼬(かまいたち)]で芸術選奨文部大臣賞受賞。

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