ときの忘れもの 今月のお勧め
■2012年03月30日(金)  萬鉄五郎 《ヴェールの女》
yorozu_01_veil.jpg 441×600 79K萬鉄五郎
ヴェールの女
1927年
木版
17.5x12.5cm
版上サインあり

2011年11月15日〜2012年1月15日に東京国立近代美術館で開催された「ぬぐ絵画―日本のヌード 1880-1945 Undressing Paintings: Japanese Nudes 1880-1945」展で萬の裸婦をご覧になりあらためてその強烈な魅力に感じ入った方も多いでしょう。植田実さんのエッセイもお読みください。
この「ヴェールの女」は1924年(大正13年)の制作で、創作版画史上では非常に有名な「神戸版画の家」という版元から頒布された木版画です。
「神戸版画の家」の主宰者は山口久吉という人ですが、精力的に恩地孝四郎はじめ当時の気鋭の作家たちに版画制作を依頼し、連刊版画集「神戸版画の家」を1924年(大正13)から1930年(昭和5)にかけて実に16集まで刊行しました。
各巻10点づつ(複製も含む)が収められたこの版画集は、おそらく完全セットで残っているのは数セットあるかどうか。
亭主は1970年代に、かなりの年月と、もちろん大枚な金額とエネルギーを費やし、ようやく完全セットにして、イギリス人コレクターに収めたことがあります。
出品作家は約60名ですが、最も評価の高く、入手が難しいのがこの萬鉄五郎作品です。
他には恩地孝四郎、棟方志功、平川清蔵、川上澄生などが珍しい作品です。
ドイツ表現派などのコレクションで知られる宮城県美術館には開館のときに、これと同じ作品を買っていただきました。
「神戸版画の家」の第3集に収められたのこの「ヴェールの女」は創作版画の記念碑ともいうべき名作でしょう。

萬鉄五郎
1885年宮城県に生まれる。 幼少期より水墨画を、また16歳の時に大下藤次郎の手引書により水彩画を独学で始める。 1903年上京し、次いで1906年渡米。 1907年、東京美術学校の卒業制作「裸体美人」(国重要文化財)でデビューする。 近代日本絵画に新時代をもたらした画家のグループ「フューザン会」に加わり、強烈な色彩と大胆な筆触による近代的な画風を展開させた。 1914年夏から、絵画制作に専念するため帰郷。 美術動向とは無縁の地で隔絶した状況に身を置き、キュビスム的な実験を試みる。
この集中的な実験の時代の後、再び上京。1917年からは数多くの作品制作を行い、 同年の「日本美術協会」展に故郷土沢で制作した作品を、また二科会展には萬の主要なキュビスムの仕事である 「もたれて立つ人」を出品した。 1919年、神経症から神奈川県茅ヶ崎に転居する。まもなく画風が変化し始め、関心も次第に 日本の伝統絵画に向かった。油彩画のほかに南画(水墨画)を描き、伝統美術の解釈は彼の洋画にも反映した。1927年、歿。

■2012年03月20日(火)  靉嘔「クラッシュドレインボー」
ayo_32_crushed.jpg 502×600 51K靉嘔
クラッシュドレインボー
1983年 シルクスクリーン 
26.0x20.0x2.0cm 
Ed.500
サインあり

靉嘔先生の「クラッシュドレインボー」について、「いったいどういう作品なのか」というご質問がありましたので、簡単にご説明します。
文字通り、靉嘔先生が名手・岡部徳三さんが刷り上げた作品を、手で握ってぐしゃりとつぶした作品です。
ですから500部が一枚一枚異なります。潰された虹の版画をそのまま箱型のケースにおさめたのが左の写真です。

そもそもこの作品は「ジョナス・メカス映画美術館建設賛助計画 オリジナル版画入りカタログ」のために制作していただいたものです。
レゾネ(阿部出版、495番)には、限定1000部(版元:現代版画センター)と記載されていますが、正しくは500部です。亭主が版元としてエディションし、そのときのジョナス・メカス展実行委員会発行のカタログにも500部と記載されていますので、間違いありません。
靉嘔先生が版画を握ってぐしゃりと潰す、それを社長が受け取り丁寧に延ばす、その繰り返しを500回。延ばした作品をカタログに挿入した(挟み込んだ)わけです。
それを知らないで後に買ったお客様が「なんだ、これは折れているではないか」とお怒りになるのはもっともなわけですが、もともと「潰された虹」の作品なのです。
こういう「冒険」ができたのは「ジョナス・メカス映画美術館建設賛助計画」の寄付金集めが目的のエディションだったからです。

靉嘔
1931年茨城県生まれ。本名・飯島孝雄。54年東京教育大学卒。53年瑛九ら[デモクラート美術家協会]に参加。55年池田満寿夫らと[実在者]を結成。58年渡米、以後ニューヨークと日本を行き来する。62年ハプニングを中心とする前衛芸術グループ[フルクサス]に参加。71年のサンパウロ・ビエンナーレはじめ各国際展で次々と受賞。全ての物体、イメージを虹色で分解し再構築した虹の作品で世界的な評価を受ける。

■2012年03月10日(土)  ウェイン・メイザー「Woman spitting beer, 1990」
MASER_01_woman.jpg 424×600 69Kウェイン・メイザー
Woman spitting beer, 1990
1990年
ゼラチンシルバープリント
50.6x40.4cm
サインあり

メイザーは1981年創立のアメリカのアパレルブランド『GUESS』のファッション・キャンペーンで注目され、以後主にファッション写真の分野で活躍しています。
暴力的でさえある大胆且つぞくっとさせるセクシュアルな緊張感を持った表現方法が特徴で、今回の出品作品にもそれが良く出ています。

■ウェイン・メイザー
写真家。1946年アメリカ・ペンシルベニア州に生まれる。
フィラデルフィア・カレッジ・オブ・アート卒業。『GUESS(ゲス)』のファッション・キャンペーン写真で世間の注目を集める。その後ファッション界の巨匠ヴェルサーチ、カルバン・クライン、ドナ・キャランなどのキャンペーン広告を次々と手掛け、彼のファッション・イメージが売上げ向上に大きく貢献する。
メイザーの写真は時に暴力的でさえあり、大胆且つセクシュアルな緊張感を持った表現方法はコマーシャルフォト界のトレンドに影響を与えた。

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